国際法と自衛隊-戦後50年の自衛隊と世論(5)

4 国際法と自衛隊
国会の議論で、当時の内閣法制局が野党から戦時における正当防衛の事例提示を求められ、「日本海海戦で東郷艦隊が損害の出ないうちに反撃の砲戦を始めたのは正当防衛ではなかった」と答えました。

海軍主計大尉だった当時の民社党永末代議士から、「すでに開戦の日から1年以上たっていた日露両国の軍隊は相互に随時に、無警告で攻撃できると言うのが戦時国際法だ」と反論され、2日後に訂正したことがあります。

「国際法規は批准された時から、憲法と同格の、一般国内法より格の高い国内法に変形される」という文明国の常識が、司法界のひとには定着していますが、行政府や立法府の人たちには、まだ知らない人の方が多いようです。

 公党の党首が未だに「憲法9条で日本の平和が維持されてきた」と本気で言う国であり、中国原子力潜水艦の領海侵犯対して、「海上における警備行動」を発令したことに対しても、弁護士の資格を持つある女性党首が『海上保安庁の巡視船で対処すべきだ」と主張する国なのです。

 海上保安庁は警察機関と認識されており、犯罪の予防・取り締まりが役目で、不可侵権を持つ海軍に強制力行使ができないことをこの党首は知らなかったようです。

 冗談話として笑って住む話ではありあせん。
 国際法に無知なリーダーがいると、国費の無駄使いと無用の国際紛争をもたらすばかりか、職務に従事する者に不要な汗や血をな流させることになるからです。

 幸いにも表向きは無事に終わりましたが、核物質の再処理の件で、日本とフランスの間を海上保安庁の担当で「飛鳥」という船が往復した時の事例を次回にご紹介したいと思います。

「国際法規は批准された時から、憲法と同格の、一般国内法より格の高い国内法に変形される」という文明国の常識が、司法界のひとには定着していますが、行政府や立法府の人たちには、まだ知らない人の方が多いようです。

 フランスから日本へ海上保安庁担当の核物質運搬について、フランスや米国は海軍と認識されている海上自衛隊の艦艇が運搬や護衛の任に当たることを強く望んだのです。

 しかし、当時の政府や与党に「もし自衛隊が日本の領海外で、外国のテロ分子と撃ち合いになると国際的な問題になるから海上保安庁にやらせよう」という、まったく誤った意見が出て、海部内閣は400億円を支出して「あすか」と言う船を建造し、海上保安庁に任せることとしました。

 これを聞いた海上自衛隊出身の元統幕議長の方が危惧の念を抱き、「文藝春秋」の誌上で「自衛艦隊には不可侵権があるから、輸送の途中で不特定の国や集団が核物質を奪いに来ても合法的に排除できるし、自衛艦はその能力がある。

もし、テロ分子が奪取を目的に海軍を装ってきたらきたら、不可侵権の無い船は、臨検拿捕まで甘んじて受けねばならず、この時に核物質を奪われる恐れがある。

また、相手の武器の如何によっては、船自体が危うい」と警告しました。

ところが次の号の「文芸春秋」にもと運輸省高官という方が「海上保安庁の船は飾り物ではない。不可侵権の有無は大した問題ではない。」という趣旨の反論を書きました。

 国際法のリーガルマインドという点では、元統幕議長の方が世界に通用する正論であり、米国やフランスが海上自衛に固執した理由も全く同様の懸念によるものでした。

また武力行使について、「自衛隊だと問題になるが、海上保安庁なら大丈夫」というのは、まさに180度国際法の規定と逆の考え方です。

 軍艦は「国土の安全確保」「自国民の保護」「海賊取締り」「奴隷売買の禁止」「麻薬取締り」「海底のパイプライン等の破壊防止」「国旗の乱用防止」等の権限のうち、「国土の安全確保」と「自国民の保護」を主任務とし、他の権限については犯罪性が疑われる時は、早急に警察機関に引き渡すのです。

つまり、海上自衛隊の艦艇が国家の安全確保や自国民保護のため、不特定の国や団体が急迫不正の侵害を加えてきた時、武力で反撃しても、国際法規で正当なものと認められますが、警察官は文官であり、交戦権者でないため、微妙な問題が生じるのです。

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