国際法のすすめ(2)条約上の義務・中立国の義務

 さて、国際法上の義務としては、ジュネーブ条約(大きく4つの条約があります。)と呼ばれる条約体系と、ヘーグ交戦法規(大きく7つぐらいの条約があります。)と呼ばれる条約体系が自衛隊にとって特に重要です。

海上自衛隊や航空自衛隊には、これに加えて「海洋法」に注目する必要があります。

 まず、外国で戦争が起きた場合、日本はどんな義務を負うかということです。

国連安保理の決議に基づく場合は、国連加盟国は国連の武力行使に何らかの形で協力する義務があります。
国連は原則として「中立主義を」銘とする非協力を認めません。

だからスイスは、国連加盟を見合わせています。

 かつてのイラン・イラク戦争のように2国間の戦いが始まった場合を見てみます。
日本が中立でいようと思ったら、日本の領土・領海・領空で、一切の外国の軍隊に対して武力の行使はもちろん通信電波を発信することはできません。
そして、交戦国の軍隊による船舶の臨検、拿捕、連行は止めさせなければなりません。

 また、日本の領海を利用して偵察や兵力の増強、兵隊の募集、船や航空機・武器の修理もさせてはなりません。

以上のことを第2次大戦中の事例で、もう少し具体的にわかり易く説明することにします。

 スイスは、大戦中約8万人のフランス軍がドイツ軍に追われて逃げ込んできたとき、これを捕らえて戦争が終わるまで抑留しました。

しかし、ノルウェーは、英国がノルウェーのフィヨルドをドイツ軍が利用するのを防止するために、ノルウェー海岸に機雷を敷設したり陸兵約2万人を揚陸するのを黙認しました。

 その結果、スイスにはヒットラーも敢えて攻撃の手を伸ばしませんでしたが、ノルウェーは軍事占領されました。

 また、スカンジナビア半島とデンマークのユトランド半島の間のスカーゲラック海峡を通るドイツの軍艦に関する情報を英国諜報部員がロンドンへ打電するのを、スウェーデンは許可しませんでしたが、デンマークは取締が甘かったため、スウェーデンが中立を全うしたのに対し、デンマークは軍事占領されてしましました。

 最後にバルト3国のことについて触れたいと思います。

 エストニア、ラトビア、リトアニアのいわゆるバルト3国は大戦初期に、その領海内でドイツ軍艦の臨検や拿捕という「強力行使」と呼ばれる行為により、ソ連船舶が不当な扱いを受けてもこれを黙認していたことを理由として、

「バルト3国に戦時国際法に定められている中立国の義務を果たす能力がないなら、ソ連が肩代わりしてやる」とソ連軍の駐留を強要され、やがてソ連に併合され50年間独立主権国家の地位を失いました。

「非武装で中立を守ることはできない」ことは、国際法の世界では常識であり、世界の歴史もそのことを実証しています。

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